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『日本軍「山西残留」――国共内戦に翻弄された山下少尉の戦後』に対する評、感想
則松久夫氏(評論家)

日本軍「山西残留」を読んで

さすが著者は元岩波書店の名編集員だけあってよく調べてある。この大作を、米浜氏の熱気の溢れる筆力に惹かれ短時日で拝読した。

世に伝えられている「あらすじ」としては200文字に納まるシナリオであるが、その行間に1巻に及ぶこれほどの事実が内包されている、そしてそれらの事実が時間と共に風化されそうになっていることを感じさせられた。

今更嘆いても仕様が無いことだが、あと20年早く犠牲者達のプロパガンダとしての書物や映画がより大きく取り上げられていたら、と思う。それにしても山下氏の「後になって分かったことですが」になんとも言えない無力感を感ずる。

戦争というものにナンセンスはつき物で、戦中、軍の司令官が大切な兵隊を粗末にした話は、ノモンハン事件やインパール作戦等のように数多ある。

多大な犠牲を残し、反省は残さずぬくぬくと戦後寿命をまっとうし厚かましい弁明書まで残した恥知らずの将官として牟田口中将とこの澄田中将が最右翼と思われる。これが陸大のトップ卒業というから恐れ入る。昭和11年、時の文部大臣平生釟三郎が寺内寿一陸軍大臣に「幼年学校を廃止すべし、幼少時よりの偏向教育の弊害は恐ろしい」と進言するが、時既に遅しではあるものの真理ではある。
しかし澄田の場合は、自己の戦犯回避の代償行為をやるという、根本的な良心、人間性の欠落そのものの問題ではなかろうか。全軍把握を怠り戦後、脳天気に「私のあしあと」を書くとは何をか況や。閻錫山が謀り、澄田が脅され、山岡、三浦等の将官が追随し、岩田、城野等が踊ったこのあらすじの中でやはり最重要であり罪過を問われるのは最高指揮官の澄田司令官の良識の無さである。私は河本大作はやはり日中戦争の起爆剤となった罪多き人物で、張作霖事件後も陸軍の手厚い保護で生きた点、まったく是としないが、山西省に残留して山西産業の部下を棄てて逃げなかった点は澄田よりマシである。私の知人・故T氏は岩松中将のころ、捕虜・閻錫山との第一軍通訳を勤め、終戦前に、山西産業に身を転じ大倉商事の面々と商売をやっていた。生前、この問題についてお聴きしたかった。

この本の中で驚いたのは地方に日本の残留部隊を「隠匿」した事実だ。
また、今村方策は忠実に動いたが、やはり司令官に謀られた事実を知り無念の思いで自殺しているが、たしかにこの男と宮崎参謀との接点があればこうはならなかったろうと思われる。

 最後に、僭越ながら、本著の優れている点、印象に残る部分を列挙させて戴く。
  1. シナリオの背景にある政治、軍事情勢の資料の調査がよく出来ており、読者の理解を助けてくれる。また貴重な写真が多く陳列されている。
  2. 登場人物のエピソードに岡村と何応欽の関係等初めて聴く事実が多かった。
  3. 主要人物情報を個人ごとに整理し理解しやすくしてある。(73~95頁)
  4. 閻錫山の立場、焦り、謀略が詳しく説明されている。読後感として、澄田より一枚役者が上だ、謀る奴より謀られる奴の方が悪い。
  5. 特務団26百人の隠匿、これがハイライトの一つと思われる。これを日本軍トップが見逃すのは不作為犯である。
  6. 大戦の参加者も八十歳を越えて毎年少なくなっていく。生き証人がいなくなって来たが、山下少尉は最後の証人の一人であろう。本著の刊行は滑り込みセーフの感あり。
 最後に、著者は岩波の勤務にあって他人の著作の編集ばかりやってこられたが、その間培われた資料収集能力がこの著作によく結集されており、また文章も感情に溺れない品格が保たれている。編集のプロだけあって誤謬も皆無のようだ。今後とも、さらに色んな歴史ドキュメンタリーに取り組まれ力作をものにされるようご精進を祈る。

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テーマ:感想 - ジャンル:本・雑誌

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