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『日本軍「山西残留」――国共内戦に翻弄された山下少尉の戦後』に対する評、感想
角尾隆信氏(弁護士)

『山西残留』拝読いたしました。たいへんすぐれたノンフィクションです。
早速私の読後感を思いつくまま書いてみます。

1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受諾し無条件降伏、全戦線(満洲を除いて)にわたって戦闘は停止、武器はすべて放棄されたものと、私たちは思っていました。ところが中国においては、ゆうに百万を超える軍隊が完全武装のまま居残っていたという事実は全くの驚きでした。まして山西省に2600名残留して共産軍と闘っていたなどは、「蟻の兵隊」について知るまで全く論外でした。

『蟻の兵隊』なる著書はまだ読んでいません。

『山西残留』は、山下正男という、普通ならば幸せに一銀行員として過ごせたであろう一青年が、時代の潮流に流され、思いもかけぬ数奇な運命に弄ばれてしまった人生を描きながら、彼をこのような濁流のなかにまきこんでしまった将軍たちの卑劣な醜い無責任な行動を、克明な事実にもとづいて摘発しているように思います。

本書を読み終わってまず感ずるのは、第一軍司令官澄田、同参謀長山岡らの無責任きわまる行動です。

彼らが、宮崎参謀のように、勇をふるって、身をもって直接閻錫山と交渉し、ポ宣言受諾後、日本軍を武装のまま残存し、閻の私兵として使用するなどはポ宣言に違反し、国際法上もとうてい認められないことを強く主張し、場合によっては連合軍司令部ならびに蒋総統にも問題にすると言い渡し、直ちに一兵残らず祖国日本に送還の手続きをとるべきことを約束させ実行させるべきであった、と思うのは私ひとりではないでしょう。

ところが、将軍たちは閻による戦犯指定の報復をおそれ、姑息というのか、ゴマカシにゴマカシを重ねて、閻の策謀に加担し、結局は山下らの多くの悲劇を招いた。なかに戦死した人たちも何百名かいる。万死に値すべき罪科である。

しかも、澄田といい、山岡といい、残留者を残したまま自分たちはゆうゆうと日本に帰還して、おそらくは高額の軍人恩給をもらって暮らしていたのだろう。

これらの将軍は、いずれも陸士、陸大を出てエリート中のエリートとしてその地位を誇っていたのである。

私は図らずも、戦争末期、フィリッピン司令官だった陸軍中将富永恭次が戦線急を告げんとするや、いちはやく台湾の安全地帯に遁走したことを思い出した。

noblesse obligeという言葉があるが、地位にふさわしい責任、誇り、自負という意味のようですが、こういう将軍たちにはこの一片もない。

せめて帰国後、国会の証人として、2600名残留について、軍命令があったことを当事者として明白に証言すべきであった。それが唯一の罪ほろぼしでもあったと考えられるのに、真実を述べず、身の保全に終始したのは何とも醜い卑劣な姿であった。

本書は別名『将軍たちのみにくい犯罪』と題してもよいようだと、ひとり合点で思います。
読みながら、色々の人物が出てくるので興味深く感じました。

城野宏は丸山真男の東大同期でひとしく南原教授の教えをうけながら、どこで読み誤ったのか、あたら才能をあやまった方向につかい、人生の歯並みを狂わせた。あわれむべきか。

河本大作は張作霖爆殺事件の主犯としてのみしか知らなかったのですが、この方面も暗躍していたのかとはじめて知りましたが、彼は彼なりに責任を感じて故国には帰らず、この点はさきの将軍に比べてまだましというべきか、と思います。

今村方策は、今村均将軍の弟とかはじめて知りましたが、今村均は戦犯で死刑判決とありましたが、戦後復員し、部下にかわって南方の島で労役に服したとかの記事を読んだ覚えがあります。武人としては立派なものだと思っていました。

書きつらねれば限りもありませんが、とりあえずこのていどとして、山下氏のこれからの実り豊かな人生の歩みを願って止みません。

最後に、この事件の最終責任者として岡村総軍司令官の問題もあると思います。松井岩根が絞首刑に処せられたのと何という違いがあるのでしょうか。

しかも、岡村らは澄田とともに、平和憲法のもとで、台湾に義勇軍を結成して送ろうとする陰謀を実行しようとしていたとは、彼らこそ真犯人ではないでしょうか。

長くなりました。またそのうち。
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テーマ:感想 - ジャンル:本・雑誌

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